「ギガが減る」という言葉の違和感を紐解いてみる

正しい日本語とは時代とともに移り変わっていくもの。

誤用とされていたはずのものが、気が付いた時には正しい使い方になっていることも多々あります。

今回は、ガジェットも扱う当ブログとしては“どうしても気になる言葉”をフィーチャーします。

スポンサーリンク

そもそも「ギガが減る」とは?

スマートフォンの普及に伴い、データ通信が生活により溶け込むようになってきた。

そんな現代ですが、主に若年層を中心に「ギガが減る」とか「ギガ死」という言葉が使われるようになりました。

この「ギガが減る」や「ギガ死」、もう生活に溶け込んでいるので今更説明は不要かもしれませんが、改めて説明しておくと

スマートフォンなどで、契約しているデータ通信容量を利用する(もしくは上限を超えてしまう)こと

です。簡単にいえば通信制限がかかってしまう状態のことが「ギガ死」ってわけです。

なぜ違和感を覚えるのか

この言葉に対して違和感を覚える人が一定数います。私も違和感がある側の人です。

なぜ違和感を覚えてしまうのか?答えはシンプルです。

ギガは単位ではないから

そうなんです。ギガって単位じゃないんですよ。

“ギガ”とは数字である

単位じゃないといっても、我々は生活の中で「ギガ」という言葉を耳にしています。

「ギガが減る」のギガも同様で、このギガは概ね、ギガバイト(Giga Byte)のギガです。これを省略してギガって言っているわけですね。

ここで出てくるバイト(Byte)というのは情報量の単位のことです。身近な例だと、iPhoneのストレージ容量とかでしょうか。128 GBとかって書いてありますよね。そのBです。

余談ですが、iPhoneなどで知られるApple社のロゴマークのリンゴ。一口かじられているのは、情報量のバイト(byte)と一口を意味する英語:bite を掛けているからだそうです。
じゃあバイトの前についている”ギガ”とは何者かと。ギガは数字です。

もう少し正確に言うならば、ギガはSi接頭辞の一つです。

ある単位を表記するにあたって、あまりにも桁数が多いと表記の不都合が多いです。それを解消ための省略記号がSi接頭辞なのです。
“ギガ”は10の9乗を意味します。つまり、1 ギガバイトは
1,000,000,000 バイト
となるわけです。0が多くてちょっとわかりにくいでしょ?
これを解決してくれるのがSi接頭辞であるギガです。
スポンサーリンク

Si接頭辞は身近に

ギガが数字であることは理解いただけたことだろうと思いますが、なんでギガバイトだけ特別なんだ、と思ったアナタ。間違いです。

Si接頭辞は我々の生活にかなり溶け込んでいます。

例えば体重を表すときに使うキログラム (kg : k = 10^3 )であったり、身長を表すセンチメートル (cm : c = 10^-1)であったり。

SI接頭辞を抜いて表現しようとすると、私の体重は50000 グラムですし、身長は0.17 メートルです。わかりにくいですよね。

生活をする上で使いやすい数字に補正してくれるのがSi接頭辞なのです。便利でしょ?

単位の省略は他でも見られる

ギガという言葉がSi接頭辞であることはわかりました。ギガバイトのことをギガと省略することが違和感の正体なのでしょうか?

でも、日常会話で単位を省略する例は数多く存在します。

身長を聞かれたときには、「○○センチ」と答えるし、体重なら「○○キロ」。

もちろん、距離を聞かれたときも「○○キロ」や、「○○ミリ」とか答えますよね。金額も、「○○万」と言う人が多いのでは?

ただ、これらの使用法に対して違和感を抱くという話はあまり聞きません。なぜでしょう。

文脈の有無の差

その理由は見出しの通り。文脈ではないでしょうか。

以下の会話を例に考えてみます。

A「ここから東京まで何キロだっけ?」
B「だいたい300キロぐらいじゃないかな」
この会話を見て、”300キロ”は”300キロメートル”を省略していることはわかるでしょう。
なぜ省略していることが理解できるのかというと、“ここから東京まで”という言葉が重要。この言葉により、距離に関する話題であることが理解できます。
一方で、通信容量を意味する”ギガ”はおそらくこういう会話で使われるでしょう。
A「わたし今月残りのギガやばくてさ~」
B「そうなんだ」
さっきの会話と何が違うのかと言えば、ギガという言葉が出てくる前に、通信容量の話題であることが理解できる言葉が出てこないこと。
突然、今月のギガがやばい、と言われると文脈上の繋がりのなさに違和感を覚えるわけです。
“残りの”という言葉は多少のトリガーになるけど、この言葉だけで通信容量であることを示唆するのは難しいでしょう。
自然な会話っぽくするなら
A「わたし今月の残り通信量やばくてさ~」
B「そうなんだ」
のほうがわかりやすいと思います。無理にギガという言葉を使うのは難しいぞ…
逆に言えば、文脈がしっかりしているギガの使い方もあります。
A「きみのiPhoneって何ギガ?」
B「128ギガだよ」
この会話なら、文脈的にiPhoneのストレージ容量を聞いていることが分かることでしょう。iPhoneがパソコンに変わると若干ややこしいのですが。
通信容量を意味する”ギガ”という言葉の違和感は、おそらくここに集約されます。
ただ、ギガという接頭辞が付く単位系って、一般には情報量を表す”バイト”ぐらい。だから違和感があっても会話は成立するし、ちゃんと意図が伝わるのです。

「パケ死」という言葉

そもそも、かつての日本では「パケ死」という言葉が流行していたそうです。もう10年以上も前、2000年代の話。

この「パケ死」というのは、(ちょっと意味は違うが)今でいう「ギガ死」のこと。

“パケ”というのはパケットのこと。英語で小包という意味もありますが、データ通信の世界では小さなデータのかたまりのことです。ちなみに1パケット = 128 バイトだそうです。

かつてガラケーが市場を席捲していた時代。今とはデータ通信のサービスが違い、従量課金制の料金サービスが多かったのです。1パケット○○円といった感じ。

128 バイトは全角64文字分のデータ容量なので、ただメールをやり取りするだけなら大した金額にはなりません。

しかし、写メ(これももう死語だろうか)の普及やweb閲覧の敷居が下がったことで、大容量通信をガラケーで担う場面が増加。知らず知らずのうちに大量のパケットを利用してしまい、超高額の請求で払えなくなる様のことをパケ死と言ったそう。

そういった事例が相次いだためか、各通信事業者はパケホーダイというサービスを展開し、定額でパケット使い放題の料金システムを打ち出し、パケ死する人は減っていった(はず)

このパケ死という言葉、当然パケットによる経済的死なので違和感はないだろう。

一方で「ギガ死」というのは少し変に思える。

現代では通信制限になることを単純にギガ死というわけですが、使いすぎたのはギガバイトなわけなので、「バイ死」のほうが本来の意味に近い気がする。

言葉は遷り変わるもの

ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。

この記事はあくまで「ギガが減る」という際の”ギガ”という言葉の使われ方に対する違和感を紐解くのが目的です。

決して、「ギガが減る」という言葉を使用する人に対して間違いだと指摘するわけじゃありません。

大手キャリアも、パケホーダイならぬギガホーダイという料金プランを展開しており、世間に「ギガ = 通信量」のイメージがもう定着しています。

重要なのは、言葉の意味をちゃんと理解した上で、世間の使い方を理解し、受け入れることだと思います。

この記事で、”ギガ”という言葉の背景にある本来の意味を知ってくれると嬉しいです。

スポンサーリンク
最新情報をチェックしよう!