eスポーツという単語がどんどんメジャーになっており、プロゲーマーという言葉も世間に浸透してきた。
その流れは車業界、ひいてはモータースポーツ業界にも徐々に迫っており、eモータースポーツという言葉がこの数年でよく登場するようになった。
レースゲームの大会というのは昔から行われている。特に、オンライン対戦がメジャーになったPS3世代以降のレースゲームでは、個人が主催する大会というのも多く見かけた。かくいう私もグランツーリスモ5でラリーの大会を主催する側にいたことがある(ニコ生ラリー選手権)
それが公に、ましてや実車で行うレースとほぼ同一の形式で行われるようになった。
先にも触れたが、グランツーリスモというゲームシリーズがある。今回参加したGT YoungChallenge2021(以下GTYC2021)も、グランツーリスモを使用した大会だ。
この記事は、GTYC2021の参加記録である。
GTYCとは
そもそもGTYCという大会はどのような大会か。単純に言うなら以下のようになる。
大学自動車部在籍6年目。よってぃーです。私が大学に入学したのが2016年の4月。昨年は新入生が1人しか入らず、今年もなかなか入部者が現れない状況。若者の車離れ、クルマの高騰…原因を考えればキリがないです。今回はそんな大学自動車部[…]
今回トピックにしているGTYCは、新たに4つ目のジャンルとして今後加えられるかもしれない大会である。
2020年に関東地区の学生自動車連盟加盟校を対象として第一回が開かれ、2021年は参加対象校を全国へと広げ開催された。
GTYC2021:鈴鹿予選
2021年のGTYCは予選日と決勝日がそれぞれ別れており、予選を通過した9校のみが決勝に進むことが出来る。
予選は鈴鹿サーキットにて。スーパーフォーミュラ最終戦の鈴鹿ラウンドの予選日と同日開催され、全国から14校が参加。14校を3グループに分けて、各グループの上位3校が決勝への参加権を手にする。
私は名古屋工業大学自動車部として参加。グランツーリスモ経験は3から6まで。PS4を買う余裕がなかったのでGTスポーツはほぼ未経験。
団体としてチームを組む他のメンバーは、今年大学に入学して自動車部に入部してくれた一年生二人。二人ともグランツーリスモスポーツまでちゃんとプレイしているガチ勢。学部一年生と修士二年という年齢差MAXのチームの誕生である。
レギュレーションはN300。コースは東京エクスプレスウェイ東ルート外回り。と言ってもGTスポーツをほぼ知らない私には訳がわからない。
発売時から情報は追っていたので、なんとなく首都高みたいなコースがあったことは知っていたのだが、レイアウトもわからない。ということでYoutubeで同じコースを走っている動画を見て予習。
GT5-6までプレイしていた方だとご理解いただけると思うが、車のレギュレーションもPP○○に慣れているせいで馴染みがない。車選び、セッティングは全て後輩に丸投げ。これが先輩である。
鈴鹿へ向かう車の中でも、後輩に対して「足引っ張ったらマジですまん」と弱腰でした。しかも当日にフリープラクティスとかもなかったので、自分のスティントで走るのがぶっつけ本番。幸いにして第二スティントだったので、第一スティントで走った後輩の走りを見てブレーキングポイントなんかを勉強。ドキドキのドライバー交代。
2009年末から当時最新だったG25というハンドルコントローラーでプレイしていた恩恵か、意外と走れる。ステアリングを切り込んだときの感触はGT6に近いな、と思いつつ過去の経験を探りながらの走行。
元々レースゲーム育ちだったおかげで、思ったよりも走れる。むしろ練習できてないわりに速いくらい。
後輩2人の速さにおんぶにだっこでしたが、予選Bグループで2位チェッカーを受け、なんとなんと決勝進出決定。
GTYC2021:東京決勝
去る12/19の日曜日、東京都にあるミッドランド日比谷にて決勝大会が行われました。Youtubeでのリアルタイム配信もされる豪華っぷり。
決勝大会は準決勝と決勝の2ラウンド構成。予選大会を勝ち抜けた9校に加え、学生自動車連盟の委員により構成されたAJSAAチームを含めた10校。準決勝のレギュレーションは予選大会と同じくN300。コースは京都ドライビングパーク雅。予選に続きコースはGTスポーツから新規で追加されたオリジナルコース。今回は事前対策として、予習のために、準決勝で使用する車とコースで走ったベストラップの動画を後輩が送ってくれました。とにかく死ぬほど予習した。準決勝でそれぞれのグループの上位3チームが決勝に進出します。
この10チームを2グループに分けるために1LAPのみのスーパーラップが行われました。担当したのも後輩です。
予選アタックは見事成功。3位につけて、Aグループの2番手につきました。
準決勝からはYoutube配信も開始。解説は、GT4で日本一に輝いた経験を持つYAMさんが登場。予選ではやまどぅーさんが出てきたし、本当に豪華面々が登場します。配信のリンクは記事の下に。34分くらいから始まります。
準決勝Aグループ:30LAPバトル
スタートからポールポジションにつける中央大学に対し、とにかく遅れを取らないように後ろから必死に食らいつきます。後輩たちはタイムアタックの能力はかなり高いですが、バトルは若干不慣れな様子。高速S字で一瞬失速したところを、後ろを走る明治大学に付け込まれそのまま3番手に後退。バトルしてるおかげで実況のカメラがずっと我々集団を映してくれます。うれしい。
明治大学に抜かれる名古屋工業大学
その後3番手をキープしつつ私にドライバーチェンジ。使命は3番手の死守。ワンチャン抜かれた明治を抜き返すこと。
Youtube配信が始まる前、予選1LAPバトルのその前にフリープラクティスの時間があり、とにかくそこで後輩たちの指南を受けつつ、グランツーリスモのリハビリに取り組んでいました。重要なことはタイムを縮めることと、それなりのタイムを揃えて10LAP耐えること。何より後ろに抜かれないこと。
実車でのレース経験は皆無の私ですが、カートレースはそこそこ経験があります。そしてグランツーリスモのレースも、GT5p時代からGT6までの足掛け4年ほどやりこんできました。横並びでのバトルは山のようにやってきましたし、自信もあった。その技術は使えるはず。
いざピットアウトすると差はほぼない状態で、明治-名工大-早稲田の3台が団子状態。とにかく早稲田を寄せ付けずに明治に食らいつくことを考えながら走りました。これは仕掛けるのが難しいコースだ、と走り出しで理解したので、後ろに対しては無理に飛び込まれないような牽制をすることに。前を行く明治のドライバーもやり手。ラップタイム的にも私とコンマ数秒の差ぐらいのものでしょう。でも速いポイントはお互いにちょっと違うみたい。
コース唯一のオーバーテイクポイントともいえるヘアピンでは、明らかにこちらに分があります。その手前の高速S字では明治が安定して速いですが、ヘアピンへの進入から立ち上がりの勢いは確実に上回っていることが3周目ぐらいで理解できました。1コーナーもなんとなく私のほうが勢いは良さそうでしたが、抜ききるほどの差はなさそう。14周目、最終のシケインで少しふらついた明治を、スリップに入ったところから1コーナーで並びかけます。インをとることは出来ても横に飛び込むまでの差が生まれません。どうしたものかと考えていたらS字の入口でアウト側に一瞬落ちて失速します。解説のYAMさんには、名工大はS字が少し乗りにくそうと突っ込まれる始末。ドライバーが悪いんです。ただ、やっぱり開いた差をヘアピンの進入で一気に詰められます。むしろ立ち上がりはこちらが引っかかってしまうくらいに差があるようです。
つまりは、ある程度S字でついていければヘアピンの入口で並ぶことは出来そう。一瞬の判断が勝負ですが、いけそうなら勝負しに行く覚悟を決めます。16周目、1コーナー出口からいい感じに真後ろにつきました。スリップについてる利点を生かして、S字の一つ目でなるべくインベタに残して二つ目の脱出速度を稼ぐ作戦にいきました。するとラッキーなことにS字の立ち上がりでピッタリと明治の後ろをロックオン。ヘアピンの入口では絶対に勝てると踏んで、ブレーキングで一気にインに飛び込みました。クリップで完全に前を抑えて2位に浮上。解説のYAMさんも「凄い綺麗なオーバーテイクでした」と頂きました。うれしい!
ブレーキングでインに飛び込む名古屋工業大学
前に出ちゃえばこっちのもんです。1コーナーで抜けないことは身をもって理解したので、抑えるべきはS字。でもS字の入口で横並び出来るほどの車速差は生まれないはず。大事なのはこちらがミスをせずに走りつつ、後ろの動きをうまく牽制していくこと。夜な夜なGT5でオンラインレースをしていた時代を思い出しながら軽くブロックライン。明治のドライバーも上手いおかげで、接触もせずにクリーンなレース運びが出来ました。そのままドライバー交代まで耐え抜き最終ドライバーへ。決勝進出に対して安全圏。
と思いながらピットアウトした最終ドライバーですが、おそらく私と同じことを考えていたはず。交代時点でトップを行く中央との差は4.6秒。追いつくには厳しい差です。
ただ、レースは何があるかわかりません。中央の最終ドライバーがピットアウト直後の周回でハーフスピン。なんとなんと、我々がトップに浮上してしまったではありませんか。中部地区のダークホース、棚ぼたで先頭に立ちます。
このコースは前にいる車が圧倒的に有利、後ろとの差は1秒弱で、2位と3位は接近戦中。バトルをするとタイムが落ちるのはレースなら自明の理です。たまには先輩らしいとこ見せようと、ヘッドセットを利用して指示をします。「後ろはバトルしてるから、今のペースでも逃げ切れるぞ」
その後は無事に10LAP消化してトップチェッカー。なんと名古屋工業大学、初出場にしてまぁまぁに目立っています。
序盤の20LAPはほぼ団子でバトルしていたおかげで、Youtubeでもいっぱい映して貰いました。やっぱりレースは目立ってなんぼです。
見事トップチェッカー
決勝:SF2019@FSW
まさか決勝に残れるとは。
始まる前にチーム内では、決勝出場を目標に行こうという話でまとまっていました。準決勝トップ通過するなんて想定外です。
決勝のレギュレーションはスーパーフォーミュラでFSWを25LAP。3種類のコンパウンドをそれぞれ消化する必要があります。事前にレギュレーションは知ってましたけど、練習環境を用意できなかったので戦いの組み立てとか出来てません。唯一の練習は当日の午前中にあったフリープラクティスだけ。幸いにしてコースは私も知っているところだったのですが、問題は車。グランツーリスモはずっとやっていましたが、私の専門は箱車です。フォーミュラはかなり苦手でした。もっとも、富士は私が一番苦手なコースなんですが。
とはいえ走ることになった以上は弱音は言っていられない。良くも悪くもグランツーリスモに対してはブランクがあります。昔はフォーミュラが苦手でしたが、今やその苦手意識すらも過去の話。とにかく頑張るしかない。なんだかんだ、思ったよりは走れる気がする。
ドライバーの走行順は準決勝と同じ。私が担当するのは第二スティント。使用タイヤはハードタイヤ。ポールポジションからスタート出来る利を生かして、頭を取ったまま私にドライバー交代し、どうにか抑え込むという組み立てをしていました。他大学がソフトタイヤでスタートすると読んで、我々はポールスタートの利点を生かすために、ミディアムで後ろを抑えようとする作戦に。最終スティントに控える我がチームのエースドライバーに、ソフトタイヤで渡すことで最後にスパートをかけて他大学を振り切る予定でした。そう、予定だった。
ポールスタートの我々に訪れた最大の悪夢。スタート時のストール。作戦は全て崩れる。我々を抜き去るライバル達、混戦の1コーナーを綺麗に切り抜ける中央。バトル慣れの差はこういうところで生きてくる。
1位スタートだった我々は、TGRコーナーを抜けたら5位まで転落してしまう。他はソフト勢、とにかく食らいついてポジションアップを図るしかない。
負けず嫌いの自動車部員たちが集まると、やっぱり多少の接触などでペナルティが目立ちます。我々はクリーンに走ることでタイムロスを減らしつつ、ソフト勢についていく方針に切り替えました。慶應が前を走りながら、我々と早稲田、法政を引っ張る展開に。タイヤ的には我々のみがミディアムで、他はソフト勢。無理に仕掛けることはせずに引っ張ってもらうことに。
スタートで後方に沈む名古屋工業大学
早稲田と法政が8LAP目にピットインし、それぞれハード、ミディアムタイヤへとチェンジ。我慢の第二スティントです。
慶應と我々は9LAP目にピットインし、ともにハードタイヤに。出番が来ました。
私の仕事は、とにかく慶應に離されず、あわよくば抜いていくこと。
ピットアウト直後、前を走る慶應を見ながらマシンに馴染むことに集中しました。グリップに劣るハードタイヤを履くため、コーナー出口のアクセルワークには気を使いながらの走行。どうもコカ・コーラから100R、300Rを抜けてダンロップの進入まではこちらが速そう。その後の第三セクターでは負ける。少し微妙な雰囲気を感じつつ、ホームストレートでスリップについて走っていたら細かい理屈は忘れてしまいました。隙があれば飛び込む覚悟です。1コーナーのブレーキング時点ではまだ捉えきれていなかったものの、ブレーキング直前でインサイドにマシンを振る。バトル中は前走車のブレーキングに合わせてブレーキングするしかない。慶應の斜め後ろで合わせて減速を開始、直感的に慶應のブレーキングポイントは理想より手前だったと察する。この勢いならいけるぞと確信して、ブレーキを緩めて慶應のインサイドに飛び込みました。実況・解説からもめっちゃ褒められてニヤニヤです。プロのレース見てるみたいだー!は非常に光栄です。何より慶應のドライバーさんもクリーンにラインを残してくれたので感謝ですね。
慶應のインに飛び込む名古屋工業大学
慶應の前に出たはよかったものの、やっぱり私は速くないらしく、4位にいた早稲田も追い付いて団子状態。カメラは我々を抜きまくりで目立ちまくりです。しばらく前で抑えるつもりでしたが、3セクがあまりにも違いすぎて慶應に再び交わされます。早稲田とサイドバイサイドでクリーンにバトルしつつ、慶應に食らいついていきます。
14LAP目の1コーナー、とうとうミスが出ます。1コーナーの出口でふらついてアウトにマシンを逃がしたらそのまま巻き込むようにスピン。早稲田に交わされて4位に転落。幸いにして綺麗なサブロクを決めてコースに復帰したのでタイムロスは最小限に留めました。
その後はソフトタイヤで追い上げ中の立教にも難なくパスされて5位に転落。完全な戦犯です。
早稲田の目の前でスピンをかます名古屋工業大学。申し訳ない。
5位のまま最終ドライバーにチェンジ。ソフトタイヤを履いてうちのエースが登場。
とにかくソフトで全力プッシュしてくれと指示。それ以外に我々が勝ちに行く術はない。
ピット戦略で早稲田が慶應を交わし2位まで浮上。狙えるのは3位までだろうか。
ピットアウトすると慶應と立教が4秒前方に。とにかく冷静についていく。
表彰台を賭けたバトルということで、慶應と立教はバチバチにやりあってます。しかし、バトルをすると相対的にラップタイムは遅くなる。じわじわと詰め寄る我々。
二台が1コーナーで交錯したところにうまく潜り込み、立教をパスしました。
慶應の後ろについていく後輩。ラップタイムに大きな差はなさそうだけど、わずかにこちらが速い。スリップについてホームストレートでパスをすると、後ろについた慶應と立教を抑えこみます。僅かに速いことがミソで、立教は慶應に果敢に攻めます。その間に我々は多少のマージンを稼げるようになりました。
その後は慶應がピットインし、立教はペナルティを受け差が開きます。3位がほぼ確実に獲得できそうになったので、後ろとの差をコントロールしつつミスせず走る作戦に切り替え。
ついに、初出場にして3位表彰台を獲得するに至りました。
3位表彰台獲得!
出場した感想
自動車部に入る前からグランツーリスモに触れていた私にとって、シミュレーターは実車と同じくらい面白い存在でした。なので、ずっと前からシミュレーターを利用した自動車部の大会があってもいいのではないかと考えていました。それがとうとう実現したわけです。
実車はどうしても各大学の資金力の差などが表面化してしまうため、完全にイコールコンディションでバトルすることは出来ません。一方で、シミュレーターは完全にイコールコンディションでバトルが出来ます。こんなにフェアな環境はないでしょう。ここでは車のせいにすることは出来なくなります。特に決勝みたいなワンメイクレギュレーションかつセッティング禁止のような条件ではなおさらです。
私としては自動車部生活最後の大会に、誰も出ないなら記念に出ておこうかな程度に思って参加していました。もちろん、出る以上は勝つために真剣でしたが。それでも、まさかここまで頑張れるとは思いませんでした。今まで自動車部内でシミュレーターの面白さを何年も説いていたのにも関わらず、誰もやってくれなかったのです。今回チームを組んでくれた1年生の子たちがグランツーリスモに真剣で本当によかった。
今回の結果で、我々の自動車部内でのシミュレーター熱は多少あがるでしょうし、全体の結果を見ても、関東の大学からの見る目は変わったことでしょう。中部地区だって凄いんですよ。
ちなみに3位表彰台の賞品として、ウィダーinゼリー1年分を頂きました。そのうち届くはず。
来年以降のGTYCがどのようになるかわかりませんが、次の大会では連続表彰台を狙って後輩たちに頑張ってもらえたらうれしいなと思います。